<試し斬り考察>

北海道無外会 高橋宏明


はじめに

試し斬りは何のためにやるのか?

答えは簡単。自分の修行の進み具合を試すために斬るのです。

決して
他の人と比べたり、自らを誇示するために行うわけではありません。

自分の修行の進み具合を試すのだから、当然思うようにいかないこともあります。
だから練る訳です。

なのに
結果が出てしまうと理由と対策を追うことを忘れ、本来の趣旨を忘れてしまうことが
見受けられます。

趣旨を忘れるぐらいならやらないほうがいいのです。
百害あって一利なし

また
思うようにいかないことを見下したり、自己満足の出汁にしたりするのは、斬れないより
恥ずかしいことだと私は思っています

何故なら斬れなくても修行の途中だからです。真剣に修行されている方を馬鹿にすること
になるからです

武術の修行で道を外れることをしては本末転倒です。



ただ
当流を修行されているのであれば試し斬りを避けるのもどうかと思います
「斬ればいいってもんじゃない」というのは斬れてから言う言葉です

長くなりましたが
試し斬りを行うにあたり、ここをご覧になっている方に、こういったことを理解していた
だければと思い書かせていただきました。


さて本題ですが
私は4つのことに注意して試し斬りを行っています

それは「心・速・技・体」です。

心が負けては斬れません。所詮すえもの動かない巻き藁です。通過点です。
これも心の問題だと思うのですが、物を切るためには刃が当たる直前が斬り初めで
刃が貫通したら斬り終わりです。当たり前のことですね。
しかしどうでしょう?遠心力に頼って巻き藁を叩いてませんか?
その振りでは絶対貫通しません。心が巻き藁に負けているのです。
速さは最低条件です。ではどうやって速く抜くか?左捌きに尽きます。
まずはこの3つの動画をご覧下さい
右手は固定、左鞘引きだけで刀身半分を抜く。
腰まで引いた左手を更に左体裁きにより鞘引き。右手は少し前へ抜くが、肩・肘・手首は
伸びない。
右手を前方に出しつつ握りを強くし抜け際で小指で切っ先を右手の高さまで跳ね上げて
刃筋をつくる。左はやや半身の状態。
・・・・・と、まあここまでを迅速にやる。つまり抜きつつ加速していくのです。
加速するには抜き出しを速くする。速くするには左捌き。体の真ん中が軸としたら左は
後ろに少し回り、右は前に少し出るようなかんじです。左半身が隠れる形になるので
残った右手が左体側に動いたように見えるのです。
こんなイメージ
模擬刀でもできる紙パック飛ばし
加速が足りないとこうなります。(笑)
技法は多々ありますが、私が注意しているのは右捌きの肩肘(手首)を張らない
ということです。つまり肩から切っ先にかけて鞭がしなるようになった状態をつくって
対象物に切り込んでいくということ。
紙パックで
飛んで行く方向を確認
で、最後にこれ。実はこれが残り1/3、あと皮一枚を斬りきる重要な要件になります。
刃が巻き藁に入っていくと加速していった剣速は減速します。ここで剣に重みが必要
となってくるのです。重い刀を使うのも方法ですが加速に難。ではどうするか?
体重を物打ちに乗せるのです。
腰を入れつつ右足を右斜め前に送っていきます。
重い剣をつくらないと手首や肘が巻き藁の抵抗に負けて戻ってきてしまい、同時に切っ先
も戻り巻き藁を通過せず斬り残したまま振り終えてしまいます。
木刀でのタイヤ打ち稽古は衝撃に慣れるという意味でとても有効です。
で、私の進み具合は
立ち技。抜き打ち横一文字。一足。
座技。抜き打ち横一文字。
当面の課題は止めること。巻き藁を抜けきった勢いで切っ先がほぼ横を向くまで
いってます。改善の方法は既に頭の中にありますのですが実践するのは難しい。
他にも直すところは多々あります。まだまだ道程は長いです。
斬れればいいってもんじゃないってことです。
最後に
巻き藁を前にすると、形や紙パック斬りのように上手くできなくなります。
これはやはり心の問題で、強く・速く、そして結果を求めてしまうが故の
乱れなのです。

極論は結果なんて急いで求めなくてもいいのです。
わざとゆっくり目に抜いて形を崩さず刃を巻き藁に食い込ませるところから始める
のです。そして何が足りないかを自分で理解・納得しつつ進めば、時間はかかりますが
光が見えてきます。その過程が最も重要だと私は思います。

全ての要件が一瞬で揃わなければ抜き打ちでは斬れません。
ならば不足している点を少しずつ練っていけばいいのです。
地道に努力すればきっと斬れるようになります。


そして合言葉は!

「私なんてまだまだです」


しかしこれには2つ意味があり、謙虚さに加え向上心を養えということなのです。

「まだまだと  思う心が  向上心」です。


参考:模擬刀でタイヤを叩くとこうなってしまいますので止めましょう


さてそれでは「技」のなかの刀の進入角度について
実際に消火器をぶった斬ってみてみましょう。
(2010.09.29追記)
右手は正中線上にあります
小指を締めて握り込みながら刃筋をつくります
切っ先に速度がついて右手を追い越していくタイミングで
ようやく右手が右斜め前に動いていきます。
当たる直前に全ての要件を集約させます。
特に手首、肘が巻き藁の抵抗に負けないよう注意します。
腰も入り、物打ちに体重を乗せます。
巻き藁を抜けた勢いで再び剣速が上がりますが、ここ
からは止めに入ります。
右足、右腰など主に右捌きで勢いを止めます。
今度は抜き打ち
左捌きで鞘から刀身を引き出します。
右はまだ動きません。
左半身になり加速
鞘離れの一瞬で小指を効かせ手の内を瞬時に完成
させます。
以降は上記と同じです
速さ、遠心力、握り込み、腕力、刃筋、重心、気力・・・・
あらゆる要素を瞬時に爆発させます。

このコンマ何秒のなかに居合の真髄が詰っている
のではないでしょうか。奥が深いです。

試し斬りは「何が正しいのか」を知ることが大切です。



「試し斬り 切っ先速くと心得て
           右手が焦って 危うかりけり」
畳を使った稽古
平面が眼下にあると目印を付けやすくて有効です。
刃筋の確認もやりやすい。振り回すだけが稽古では
ありません。

畳近くで確認

通常の高さで確認

そして紙パックで確認
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